ウイルス性食中毒 Norovirus (NV) の高感度検出法の開発
ウイルス下痢症の疫学研究、予防に貢献!

ノロウイルスは古くて新しい食中毒ウイルス
食中毒の原因としては一般に、サルモネラ、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌 O-157 などのバクテリア (細菌性食中毒) あるいはフグやキノコなどに含まれる自然毒 (自然毒食中毒) が知られていましたが、これまでの疫学調査から、冬季に頻発するウイルス性食中毒の大多数は、ノロウイルス (NV) が原因であることが明らかになっています。
NV は、1972 年に米国で発生した集団胃腸炎患者の糞便から電子顕微鏡観察で不明瞭な表面構造を持った直径約 30 nm の小型の球形ウイルスとして発見されたため、このような形態を持ったウイルス群を小型球形ウイルス (Small Round Structured Virus: SRSV) と呼ばれていた時期もありました。今から 30 年も前に発見されたウイルスであるにも拘らず、組織培養細胞や実験動物による培養ができなかったため、研究は困難を極めましたが、1990年になって、ようやく NV の遺伝子構造が明らかにされ、現在もなお、分子生物学的な手法を中心にして疫学的研究やウイルスの性状に関する研究が精力的に進められています。


ノロウイルス感染症の診断方法は?
従来、NV の診断は電子顕微鏡 (EM) でウイルス粒子を直接確認する EM 法が用いられてきました。もちろん、他のウイルス感染症の診断と同様、1990年に NV 遺伝子の塩基配列が解明されて以来、迅速かつ高感度な RT-PCR 法が多くの研究者によって検討されてきました。しかしながら、NV には多くの遺伝子型が存在し、遺伝子配列が多様性に富むため、EM 法の感度より優れ、かつ、効率よく NV を検出するプライマーの開発が困難であり、これまで RT-PCR 法は検査の主流にはなりえませんでした1, 2
われわれは、2003 年、これまでに報告された、数多くの NV 検出用プライマーセットよりも高い検出率を示すプライマーセットを報告しました3。このプライマーセットは、電子顕微鏡でウイルス粒子が観察された検体の約 70% からウイルスの検出が可能でしたが、検出できない NV も存在していました。RT-PCR 法の検出精度や信頼度を上げるには、ウイルス株間で最もよく塩基配列が保存された領域にプライマーを設計することが必要でした。しかし、2000 年 4 月時点で、核酸データーベース上に公開されている NV ゲノム全長の塩基配列はわずか 5 株のみでした。これでは、より優れた検出率を示す新たなプライマーセットを設けることはできません。


われわれの成果
そこでわれわれは、新たに NV9 株の全長塩基配列を決定し、核酸データーベースに登録済みの 5 株と合わせて 14 株の全長塩基配列を詳細に解析しました2。その結果、多様性に富む NV ゲノム遺伝子の中にも、全ての株間で 100% 近く塩基配列の保存されている領域が存在することが明らかになりました。この領域をターゲットにした、プライマーセットおよびプローブを新たにデザインし、リアルタイム PCR 法による高感度で簡便な NV の検出法の構築に成功しました3。この新しい検出法は、現在のところ電子顕微鏡で NV 粒子の確認された検体を 100% 検出できるばかりでなく、検体懸濁液中の NV 遺伝子を定量することも可能です。2009年には、この知見を応用した特許も取得することができました (下記参照)。


今後の期待
NV は、ウイルスに汚染されたカキやムール貝などの貝類や、飲料水、海水などの環境水を摂取すると感染する経口感染ウイルスであると考えられています。また、最近では、糞便飛沫や嘔吐物の飛沫からの感染も疑われています。カキなどの食品や環境水から NV を高感度に検出できれば、NV の感染を未然に防ぐことができます。私たちの開発した検出法は、RT-PCR に用いる反応液に 1~10 本の NV 遺伝子が存在すれば、検出可能なほど高感度であることから、前述のような検体を対象とした NV の汚染検査に効果を発揮することが期待できます。本法を用いた全国規模の検体検査が実施されれば、NV によるウイルス性食中毒の疫学調査に役立つばかりでなく、NV 感染の予防、NV 感染症の研究の進展に貢献できると考えています。


BML のノロウイルス関連特許

特許第4437525号「ノーウォーク様ウイルス(GⅠ)の検出方法」 EP1329522、US7202032
特許第4416648号「ノーウォーク様ウイルス(GⅡ)の検出方法」 EP1329523、US7351819
特許第4437525号「ノーウォークウイルスに対する抗体及びこの抗体を用いたウイルスの検出方法」
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関連発表論文

  1. Genogroup-specific PCR primers for detection of Norwalk-like viruses.
    Kojima S, Kageyama T, Fukushi S, et al.
    J Virol Methods. 2002;100:107-114

  1. Phylogenetic analysis of the complete genome of 18 Norwalk-like viruses.
    Katayama K, Kojima S, Kageyama T, et al.
    Virology. 2002;299(2):225-239

  1. Broadly Reactive and Highly Sensitive Assay for Norwalk-Like Viruses Based on Real-Time Quantitative Reverse Transcription-PCR.
    Kageyama T, Kojima S, Shinohara M, et al.
    J Clin Microbiology. 2003;41(4):1548-1557.

2013.05作成


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