PCSK9 蛋白質定量系の開発
LDL コレステロール代謝に関わる新たな因子

LDL コレステロールと冠動脈疾患
Low-density lipoprotein (LDL) コレステロール値を低値にすることは、冠動脈疾患予防の基本です。1980 年頃に、「フラミンガムスタディ 」に代表される前向きコホート研究により、LDL コレステロール高値と冠動脈疾患との関連性が指摘されました1。1987年にスタチンというコレステロール低下薬が上市され、本薬剤による治療介入により冠動脈疾患のリスクが減少するというエビデンスが得られました2。その結果を踏まえ、欧米および本邦のガイドラインでは、冠動脈疾患の既往歴がある患者に対し LDL コレステロールを 100 mg/dL 未満に維持することを推奨しています。さらに、冠動脈疾患発症のリスクが最も高い患者群では、LDL コレステロールを 70 mg/dL 未満、あるいはさらに低値にすることを推奨するガイドラインも存在しています。


コレステロール低下薬の現状と課題
スタチンは冠動脈疾患予防に対し有効な治療薬ですが、これには重大な問題があります。冠動脈危険因子の高 LDL コレステロール血症に対しスタチンは、血中 LDL コレステロールを細胞内に取り込む機能をもつ LDL 受容体の発現を亢進させ、その結果血中LDL コレステロール値を低下させます。その有効性は広く認知されており、スタチンは高 LDL コレステロール血症治療の第一選択薬です。しかしながら、多くの患者、特に初期の LDL コレステロール値が高値の患者では、スタチン療法のみで推奨 LDL コレステロール値を達成できないことを経験します。この場合、重篤な副作用の出現リスクを高める高用量スタチン療法や、スタチンにエゼチミブ、レジン、あるいはナイアシンを併用することで LDL コレステロール値を減少させることを試みます3。しかしながら、これらの対応を行っても血中 LDL コレステロール値の減少率はわずかで推奨値を達成することが困難であることが多いです。このような症例では、副作用の少ないより効果的な治療オプションが必要とされています。


新たな標的「PCSK9」
高 LDL コレステロール血症に対する治療標的分子として、新たに proprotein convertase subtilisin/kexin type 9 (PCSK9) が注目されています。2003 年に PCSK9 が家族性高コレステロール血症の第3の原因遺伝子であることが報告されました4。その後の研究から PCSK9 には LDL 受容体の分解を促進する働きがあることがわかりました5 ( 図1)。PCSK9 の機能を阻害することで LDL 受容体の分解が抑制され、血中の LDL コレステロールは効率よく細胞内に取り込まれます。その結果、PCSK9 阻害剤は血中 LDL コレステロールを推奨濃度に維持することが予測されます。現在、いくつかの PCSK9 阻害薬が開発され臨床試験第 Ⅱ および Ⅲ 相のレベルまで検討され、これらの薬剤とスタチン製剤との併用で血中 LDL コレステロール値は著明に低下することが確認されています6,7


BML 独自の測定系
われわれは、血中に存在する全ての形態の PCSK9 を測定する検査を開発しました。PCSK9 は血中では、ヘテロダイマー型 (HD-PCSK9) と、ヘテロダイマー構造をとらなくなった型 (われわれはフリーフラグメント (FF-PCSK9) と呼んでいます) で存在しています。HD-PCSK9 には、前述した LDL 受容体を分解する働きがあります。しかしながら、FF-PCSK9 にはその働きが弱く、血中には活性の異なる PCSK9 分子が混在していることが報告されています8 (図2)。この点に着目し、われわれは HD-PCSK9 と FF-PCSK9 それぞれに特異的に測定できる ELISA を開発し、血中 PCSK9 の全体量とそれぞれの型の存在比を測定することを可能としました。(図3)





今後の期待
新規コレステロール低下薬として PCSK9 阻害剤の開発が進んでいることから6, 7、血中 PCSK9 濃度は高脂血症患者の病態や薬物治療の効果判定等に有効なマーカーになると期待されます。


参考文献

  1. 1.Summary estimates of cholesterol used to predict coronary heart disease.
    Castelli WP, Abbot RD, McNamara PM.
    Circulation. 1983;67(4):730-4.

  1. 2.Third Report of the National Cholesterol Education Program (NCEP) Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adult Treatment Panel III) final report.
    National Cholesterol Education Program (NCEP) Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adult Treatment Panel III).
    Circulation. 2002;17;106(25):3143-421.

  1. 3.Combination therapy: its rationale and the role of ezetimibe
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    Roth EM, McKenney JM, Hanotin C, et al.
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  1. 7.Effects of AMG 145 on Low-Density Lipoprotein Cholesterol Levels: Results From 2 Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Ascending-Dose Phase 1 Studies in Healthy Volunteers and Hypercholesterolemic Subjects on Statins.
    Dias CS, Shaywitz AJ, Wasserman SM, et al.
    J Am Coll Cardiol. 2012;60(19):1888-98.

  1. 8.The proprotein convertase (PC) PCSK9 is inactivated by furin and/or PC5/6A: functional consequences of natural mutations and post-translational modifications.
    Benjannet S, Rhainds D, Hamelin J, et al.
    J Biol Chem. 2006;281(41):30561-72.

  2. 9.Removal of plasma mature and furin-cleaved proprotein convertase subtilisin/kexin 9 by low-density lipoprotein-apheresis in familial hypercholesterolemia: development and application of a new assay for PCSK9.
    Hori M, Ishihara M, Yuasa Y, et al.
    J Clin Endocrinol Metab. 2015;100(1):E41-9.

2015.08作成


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