症例から学ぶ白血病診断

はじめに

 日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG、現日本小児がん研究グループ(JCCG)血液腫瘍分科会)によって2005年から2010年にかけて実施された小児急性骨髄性白血病(AML)に対する多施設共同後期第Ⅱ相臨床試験AML-05、小児急性前骨髄球性白血病(APL)に対する多施設共同後期第Ⅱ相臨床試験AML-P05、ダウン症候群に発症した小児急性骨髄性白血病(AML)に対するリスク別多剤併用化学療法の後期第Ⅱ相臨床試験AML-D05では、診断の精度管理・標準化のためWHO分類に基づいた中央診断システムが導入されました。そこで中央診断を行った600例を越える症例の経験を広く共有することを目的とし、AMLの診療に関わる医師や検査技師に向けたAMLの総合診断が学べる症例集を作成しました。

 最初に、Ⅰ.WHO分類によるAML診断の進め方(木下明俊)、Ⅱ.AML形態診断の極意(宮地勇人)、III.白血病の染色体情報を読み解く(滝智彦)、について解説します。
 次に、WHO分類のAML病型分類ごとに症例を提示します。臨床情報と血液・生化学検査の抜粋、骨髄形態写真とその解説、細胞表面マーカー解析結果、染色体・遺伝子検査結果を示し、それらを総合した最終診断について解説します。なお、個人情報保護の観点から、症例の臨床情報については診断に差し支えない範囲で改変してあります。
 AMLのWHO分類に基づく診断・分類は病歴や診察・検査所見などの臨床情報、形態学、細胞表面マーカー解析結果、染色体・遺伝子検査結果を統合して行われます。これらを的確に解釈し正確な診断につなげるプロセスについて、この症例集を通して理解していただければ幸いです。

Ⅰ.WHO分類に基づいた急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia: AML)の診断の進め方

[Key Points]

・末梢血および骨髄血塗抹標本の観察と細胞表面マーカー解析結果からFAB分類に基づいた診断を行う。遺伝子・染色体の結果が判明した時点でWHO分類にづいた診断を行う。

・骨髄穿刺で骨髄血が吸引困難の場合や骨髄が低形成を示す場合、芽球比率が低く骨髄異形成症候群との鑑別が問題となる場合には、骨髄血クロット標本や骨髄生検標本による病理組織診断を併せて行う。

・WHO分類では骨髄有核細胞に占める芽球の割合が20%以上の場合にAMLと診断するが、t(15;17)、t(8;21)、inv(16)の核型異常を示す症例では20%未満でもAMLと診断できる。

・ダウン症候群の患者では、芽球比率に関わらずダウン症候群に伴う骨髄系腫瘍として扱う。

・WHO分類は新たに見つかった臨床的に意義のある遺伝子の情報に重点をおいての改定が続けられており、臨床の場でもこれらの遺伝子検査が求められている。

 骨髄系前駆細胞のクローン性増殖から生じる造血器腫瘍であるAMLは、生物学上でも臨床上でも多様性に富む疾患群である。従来、AMLの病型分類は形態学に基づくFAB分類によって行われてきた。しかし、AMLの生命予後や治療反応性と関連する染色体・遺伝子異常が次々と明らかになり、これらの臨床的に意義のある情報を組み入れたWHO分類が提唱され、今では臨床の場で広く用いられている。WHO分類は、分子診断や分子標的治療につながるAMLの新規疾患単位を次々と取り込んで改定を重ねている。
 臨床症状や血液検査所見から白血病が疑われた場合、骨髄穿刺を行って急性白血病か否かをまず判断する。患者の状態から骨髄穿刺が危険と判断される場合は末梢血で診断せざるを得ない場合もあるが、その場合は正確な病型診断が困難となることもある。急性白血病では白血病細胞(通常は芽球)のクローナルな増殖を認める。FAB分類では芽球および芽球相当の細胞が骨髄全有核細胞の30%以上を占めることが急性白血病と診断する条件であったが、WHO分類では20%以上となった。さらに、t(15;17)、t(8;21)、inv(16)の反復性遺伝子・染色体異常を伴うAMLの場合は20%未満でもAMLと診断できるようになった。
 骨髄穿刺で骨髄血が吸引困難の場合は骨髄生検を行っての病理組織学的診断が必要となる。また、骨髄が低形成を示す場合や芽球比率が低く骨髄異形成症候群との鑑別が問題となる場合にも骨髄生検が推奨される。
 形態診断では、May-Giemsa染色ないしはWright-Giemsa染色、さらにミエロペルオキシダーゼ(MPO)染色、エステラーゼ染色などの特殊染色を行なった塗抹標本の観察から白血病細胞の起源、すなわち骨髄球系なのか、単球系なのか、赤芽球系なのか、巨核球系なのかを判断する。MPO染色陽性の場合はAMLであることの診断は比較的容易であるが、この場合は治療に緊急を要することの多い急性前骨髄球性白血病を見逃さないことが重要である。MPO染色陰性の場合は急性単芽球性白血病、急性巨核芽球性白血病、最未分化型AML、さらには急性リンパ性白血病などが鑑別にあがり、細胞表面マーカー解析結果も参考にして判断する。AMLでは通常CD13、CD33、CD38、CD117の発現が認められるが、単球性ではCD14、CD64、CD11c、erythroid leukemiaではCD235a、CD36、巨核芽球性ではCD41、CD42b、CD61の発現が診断に有用である。

 AMLの診断時の染色体検査は必須である。必要に応じて、Monosomy 7 などのFISH検査も追加する。遺伝子検査も重要で、RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)CBFB-MYH11、PML-RARA、KMT2A(MLL)ーMLLT3(AF9)、KMT2A(MLL)-ELL、FUS(TLS)ーERG、NUP98-HOXA9などの各種キメラ遺伝子やFLT3、KIT、NPM1、CEBPAの解析を行う。これらの染色体、遺伝子の結果が揃った時点でWHO分類による病型が確定できる。

 AMLのWHO分類にはヒエラルキーがあり、上位から反復性遺伝子異常を伴うAML(AML with recurrent genetic abnormalities)、骨髄異形成関連の変化を伴うAML(AML with myelodysplasia-related changes)、特定化されないAML(AML, not otherwise specified)の順に層別化されている。例えば、形態診断で多系統の異形成を認める症例でも、染色体や遺伝子検査でt(8;21)やRUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)を認めた場合は反復性遺伝子異常を伴うAMLに分類される。時に染色体とキメラ遺伝子の結果に乖離が見られる場合があるが、この場合はFISH法などによる確認を行う。このような確認検査が必要になる場合に備え、染色体検査後のカルノア固定液の残検体を固定し保存しておくことが望まれる。
 ダウン症候群患者ではAMLとMDSは臨床的にも生物学的にも差はないと考えられており、芽球比率に関わらずダウン症候群に伴う骨髄系腫瘍として扱う。ダウン症候群に合併する骨髄系腫瘍ではGATA1遺伝子変異を高率に認め、診断に迷う場合はGATA1遺伝子検査が有用である。
 2017年のWHO分類の改定により、2008年版では暫定的病型であったNPM1遺伝子異常とCEBPA遺伝子異常の2つが反復性遺伝子異常を伴うAMLの中の独立した疾患単位として正式に認められ、BCR-ABL1遺伝子変異を伴うAMLおよびRUNX1(AML1)遺伝子変異を伴うAMLの2つの病型が暫定的病型として加わった。骨髄異形成関連の変化を伴うAMLは、2008年版で骨髄異形成症候群(MDS)や骨髄増殖性腫瘍(MPN)の既往を持つ、多系統の異形成を示す、MDS関連の染色体・遺伝子異常を認めるいずれも予後不良のAMLとして反復性遺伝子異常を伴うAMLの次に位置づけられたカテゴリーであるが、NPM1遺伝子変異や両アリルCEBPA変異の予後良好因子を持つ症例は取り除かれることになった。さらにdel(9q)も必ずしも予後不良因子ではないことから取り除かれた。また、従来は骨髄の赤芽球が50%以上の場合、赤芽球を除く有核細胞中の芽球が20%以上あればAMLと診断できたが、2017年のWHO分類の改定では芽球の割合が全骨髄細胞に占める割合に統一されたことにより、急性赤白血病の赤芽球/骨髄球型の多くはMDSと診断されることになった。
 WHO分類が遺伝子解析研究の成果をより反映する方向で改定が続けられており、予後予測や将来の分子標的治療につながる有用な分類に進化している一方で、日常診療の場ではWHO分類に基づいた病型診断に必要な遺伝子診断を全て実施することが難しいことも事実である。そのような現状では、後の検索に備え、バイオバンクなどでの検体保存を行う必要がある。

参考文献


1)Swerdlow SH, Campo E, Harris NL, et al. WHO Classification of Tumors of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Revised 4th Edition.Lyon, France: International Agency for Research on Cancer, 2017


2)Dohner H, Estev E, Grimwade D, et al. Diagnosis and management of AML in adults: 2017 ELN recommendations from an international expert panel. Blood 129: 424-447, 2017


3)Creutzig U, van den Heuvel-Eibrink MM, Gibson B, et al: Diagnosis and management of acute myeloid leukemia in children and adolescents: recommendations from an international expert panel. Blood 120: 3187-3205, 2012


4)Arber et al, 2016. The 2016 revision to the World Health Organization classification of myeloid neoplasms and acute leukemia. Blood, 127(20):2391-405, 2016


5)Bain BJ, Bene MC. Morphological and Immunophenotypic Clues to the WHO Categories of Acute Myeloid Leukaemia. Acta Haematol 141:232-244, 2019


表1. WHO 2017 classification of acute myeloid leukemia (AML) and related neoplasms

AML with recurrent genetic abnormalities

  AML with t(8;21)(q22;q22.1);RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO) 

  AML with inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22):CBFB-MYH11

  Acute promyelocytic leukemia with PML-RARA
  AML with t(9;11)(p21.3;q23.3);KMT2A(MLL)-MLLT3(AF9)
  AML with t(6;9)(p23;q34.1);DEK-NUP214(CAN)
  AML with inv(3)(q21.3q26.2) or t(3;3)(q21.3;q26.2);GATA2,MECOM(EVI1)
  AML(megakaryoblastic) with t(1;22)(p13.3;q13.1);RBM15(OTT)-MKL1(MAL)
  AML with mutated NPM1
  AML with biallelic mutation of CEBPA

 Provisional entity

  AML with BCR-ABL1
  AML with mutated RUNX1
AML with myelodysplasia-related changes
Therapy-related myeloid neoplasms
AML, not otherwise specified
  Acute myeloid leukemia with minimal differentiation
  Acute myeloid leukemia without maturation
  Acute myeloid leukemia with maturation
  Acute myelomonocytic leukemia
  Acute monoblastic and monocytic leukemia
  Pure erythroid leukemia
  Acute megakaryoblastic leukemia
  Acute basophilic leukemia
  Acute panmyelosis with myelofibrosis
Myeloid sarcoma
Myeloid proliferations associated with Down syndrome
  Transient abnormal myelopoiesis associated with Down syndrome
  Myeloid leukemia associated with Down syndrome

Ⅱ.血液細胞形態診断の極意

[Key Points]

・骨髄塗抹標本の血液細胞形態は、造血器腫瘍の発症時において、疾患の診断、病型あるいは病期に関する情報を提供する。

・正確な血液細胞の形態診断は、骨髄吸引液の塗抹標本の質に依存しており、末梢血混入を回避するよう吸引採取し、適切に標本を作製する。

・骨髄検査の解釈には、末梢血混入の影響の有無を評価することが極めて重要で、その指標として、脂肪滴、顆粒球系と赤芽球系の比、顆粒球系の分化成熟段階、血小板数と巨核球の乖離、リンパ球の比率に着目する。

・骨髄塗抹標本の血液細胞形態は、治療効果、背景疾患、造血状態や治療合併症に関する情報を提供する。

・急性骨髄性白血病の形態に基づく診断において、標準化された細胞判定および精度管理された細胞分類が重要で、異常幼若細胞(芽球、前骨髄球、異常前単球)の判定と細胞異形成の定量的評価を精確に行う。

・形態所見に基づく病型診断において、染色体・遺伝子異常に基づく特徴的な細胞所見に着目する。

・病型の確定は、形態診断とともに、基礎疾患や治療経過などを踏まえて、細胞表面マーカー検査、染色体・遺伝子検査の所見を総合し診断アルゴリズムに従って行う。

1.骨髄塗抹標本の作製と観察の基本
(1)骨髄検査の検体採取、保存、塗抹標本の作製

 骨髄検体の採取部位は通常、骨髄腔にアクセスするための広い面積をもち、より安全に採取実施が可能な後上腸骨陵にて行う。穿刺吸引時には、骨髄腔内に発達した静脈洞からの末梢血の混入を回避することが大切である。骨髄吸引液は、針を穿刺後、一気の陰圧による素早い吸引で0.2-0.5mLを採取する。末梢血の混入した検体では、芽球など異常な細胞の比率が相対的に低下し、急性白血病の診断や病型分類に影響が出る。また、巨核球やマクロファージなど骨髄中にのみ存在する細胞成分での形態異常、骨髄浸潤性病変について検出や評価が困難となる。
 骨髄吸引液の塗抹標本の作製は、ベッドサイドにて吸引採取時に抗凝固剤を用いず、速やかに行う。吸引した骨髄液は、通常は引きガラス(ヘマトサイトメータ用カバーガラス)を用いて直接塗抹にてスライド標本を作製する(ウエッジ法)。骨髄吸引液の塗抹標本作製は、有核細胞数が多いこと、粘稠度が高いことから、末梢血の場合より薄く塗抹する。塗抹後、ドライヤーなどの冷風にて強制乾燥する。塗抹標本数は、普通染色と特殊染色用に、10枚程度を作製する。塗抹標本は長期間保存すると、普通染色で青く染色され、細胞分類が困難となる。特殊染色の内、酵素染色は酵素が時間とともに活性低下するため、塗抹後早期に固定・染色する。なお、骨髄検体採取時に染色体検査や細胞表面マーカー検査(フローサイトメトリー法)用の検体を採取する場合、抗凝固剤として用いるヘパリンが塗抹標本に混入すると細胞が変性し細胞形態検査に適さない。
 骨髄有核細胞数、巨核球数は、吸引した骨髄液をチュルク液で希釈し、計算板で算定する。チュルク液を一定量試験管に分注しておき、骨髄液をマイクロピペットにて加え、希釈・染色する(それぞれ1mL、20μLであれば、希釈率は50倍)。
 病理組織検査が必要な場合、骨髄穿刺吸引の前に骨髄組織生検を行うことが望ましい。骨髄生検の実施は、異常細胞の著しい増生や線維化などでdry tapとなり骨髄吸引液が得られない場合にも適応がある。小児では骨髄組織生検の実施が困難なことが多いため、吸引骨髄液からの骨髄組織小片をスライド同士で押しつぶし伸展するスライド標本(圧挫伸展標本)や残存骨髄液の凝集後に固定液に浸ける骨髄クロット標本も作製しておく。細胞密度の正確な評価やがん細胞の骨髄浸潤の検出に利用する。

(2)判定と結果の解
1)塗抹標本の観察のポイント

①目視観察では、骨髄液が適切に吸引採取された指標として、骨髄組織小片(パーティクル)や脂肪滴を確認する。

②弱拡大(100倍)では、適切な標本であるか、有核細胞密度や脂肪細胞の程度を指標として確認し、巨核球数の増減や形態を評価する。次に、腫瘍細胞の集塊の有無を調べる。異常細胞は、骨髄標本の引き終わりや辺縁に大型細胞として集簇していることが多い。

③中拡大(200-400倍)にて、各造血細胞系統の比率あるいは分化成熟の状態を評価する。

④強拡大(1000倍)にて、500-1,000個の細胞分類を行い、異常細胞の詳細な形態観察を行う。異常細胞の鑑別は、細胞の大きさ、細胞質、顆粒、核形、クロマチン構造、核小体などに基づき行う。

2)データの解釈

①正確な形態診断は、骨髄吸引液の塗抹標本の質に依存している。骨髄検査の解釈において、末梢血混入の影響の有無の指標として、骨髄パーティクル、脂肪滴、顆粒球系と赤芽球系の比、顆粒球系の分化成熟段階、血小板数と巨核球の乖離、リンパ球比率に着目する。

ア)同時に行った有核細胞数(基準範囲 10-25万/μL)あるいは巨核球数(基準範囲50-150/μL)の算定においては、末梢血混入の場合、希釈されて低値となる。有核細胞密度あるいは巨核球数の増減は、細胞密度と矛盾がないかを確認する。顆粒球系細胞や赤芽球系細胞では、各分化成熟段階(それぞれ後骨髄球、多染性赤芽球が中心)の細胞が整っているかを確認する。末梢血が混入した場合、末梢血中からの白血球の混入のため、顆粒系成熟細胞の比率が高くなる。

イ)顆粒球系と赤芽球系細胞の比率(ME比、基準範囲2:1-3:1)から、それぞれの細胞増殖の相対的な程度を知る。

ウ)単球、リンパ球、形質細胞、マクロファージの比率、形態変化を確認する。

エ)細胞異形成が見られる場合、細胞系統ごとの異形成所見の定量的評価を行う(後述)。

②急性白血病と骨髄の形態変化の関係を図1に示す。初発時の骨髄検査においては、形態変化の由来は、腫瘍性細胞と宿主細胞に大別される。前者には、芽球増加に加え、その背景疾患となる骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)や骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)に伴う形態変化がある。後者では、正常造血が抑制されることによる成熟段階の血液細胞の減少および間質細胞(脂肪細胞、内皮細胞など)の変化(マクロファージ活性化、線維化など)が見られる。

③異常細胞として、芽球(増加)に加え、リンパ腫細胞やがん細胞などの鑑別が必要となる。

ア)急性白血病の診断の課題として、正常B前駆細胞に由来する小型の芽球細胞であるヘマトゴンhematogoneがある。ヘマトゴンhematogoneは、小児での抗がん剤化学療法後、骨髄移植後など骨髄回復期や各種非造血器疾患において、正常B前駆細胞に由来する小型の芽球細胞である。悪性リンパ腫や固形腫瘍の骨髄浸潤や急性白血病の診断において、形態学的な芽球の判定は重要となる。血球減少をともなう初診患者では、Bリンパ芽球性白血病との鑑別を要し、Bリンパ芽球性白血病の患者では治療後の残存病変や再発の評価において診断上の課題となる。形態的には小型の細胞で細胞質に乏しい。核形は円形で、核網は均一で濃厚、核小体は不鮮明である。細胞表面形質ではCD10、19陽性細胞で、多クローン性成熟B細胞である。

イ)小児の悪性リンパ腫は、病型としてBリンパ芽球性リンパ腫 B lymphoblastic lymphoma (B-LBL)、Tリンパ芽球性リンパ腫 T lymphoblastic lymphoma (T-LBL)、バーキットリンパ腫:Burkitt lymphoma、未分化大細胞型リンパ腫:anaplastic large cell lymphoma (ALCL) (Ki-1 lymphoma)が大半を占める。これら病型の多く、特にB-LBL、T-LBL、バーキットリンパ腫では骨髄浸潤をきたしやすく(stage IV)、骨髄中の芽球細胞が25%を超えるときは急性リンパ性白血病と診断される。

ウ)小児の固形腫瘍では、上記の悪性リンパ腫をはじめ、神経芽腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍など、細胞サイズが小さく、small round cell tumorと呼ばれる。これらは骨髄浸潤しやすく、ときに白血病との鑑別を要する。

2.形態診断の進め方のポイント
(1)骨髄系幼若細胞の同定と細胞分類

 急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)のWHO分類では、骨髄有核細胞(末梢血白血球)中の芽球比率が20%以上に増加している場合を急性白血病とする。ただし、芽球比率20%未満でも、その他の検査所見に基づく基準を満たした場合はAMLとする(表1)。続いて病型診断は、各細胞系統の分画、芽球の特殊染色、細胞表面マーカーの性状および染色体・遺伝子検査の所見を併せて行う(図2.詳細は前章「Ⅰ.WHO分類に基づいたAML診断の進め方」を参照)。
 芽球比率では、顆粒有り芽球(タイプII)と前骨髄球の鑑別が重要である。異常幼若細胞(芽球、前骨髄球)の判別は、病型診断として未分化型AML(M1)、分化型AML(M2)および急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL,M3)の病型診断を左右する。顆粒あり芽球(タイプII)と前骨髄球の判別のポイントは、前者の形態は、顆粒なし芽球に細胞質顆粒が加わった細胞である(図3A)。ただし、症例(病型)によって、顆粒なし芽球の形態は大きく異なるため、主体となる芽球の特徴をとらえ、それを基準に判別を行う。これらの点に留意して形態所見を観察すれば、骨髄で増殖した異常幼若細胞の主体が芽球(タイプII)であるか、前骨髄球であるか容易に判別でき、病型が正しく判断できる。
 また、WHO分類では、前単球は芽球相当として取り扱う。このため、その細胞判定と分類が重要となる。単芽球は、大きなサイズで僅かな顆粒を含む比較的豊富な細胞質をもち、核は円形でレース様の核網と1〜2個の明瞭な核小体が見られる。前単球は、核形がより不規則で折り重なっており、繊細なクロマチン構造と小さな不明瞭な核小体が見られる(図3B)。その細胞カウントは、急性単芽球性・単球性白血病、急性骨髄単球性白血病および慢性骨髄単球性白血病(芽球相当を含む芽球比率<20%)の病型診断を左右する。
 古典的な15;17転座のAPLの診断には、アウエル小体やファゴット細胞の所見確認が必要である。これらが明らかでない場合、15;17転座以外のRARA再構成を有するバリアント転座APLの鑑別が必要となる。鑑別の指標として、前者に特徴的な微細な顆粒、核の切れ込みやファゴット細胞、後者に特徴的な濃い顆粒や核形整な前骨髄球を確認する。

(2)急性骨髄性白血病の基本的な病型分類

 細胞分類に続いて、基本的な病型分類を行う(図4)。WHO病型分類の他のカテゴリーに該当しないAML(AML, not otherwise specified)は、FAB病型分類を踏襲している。そこで、ミエロペロキシダーゼ(MPO)陰性(3%未満)の場合、免疫形質、染色体検査やキメラ遺伝子検査の結果が不明の段階では、形態診断による病型分類は実際上の課題となる。MPO陰性AMLの病型としては、最未分化型急性骨髄性白血病、急性単芽球性白血病、急性赤白血病あるいは急性巨核芽球性白血病が挙げられ、その鑑別はしばしば困難である。以下に、急性単芽球性白血病と急性巨核芽球性白血病の形態診断のポイントを挙げる。
 急性単芽球性白血病の多くは非特異的エステラーゼ染色陽性にて確認できる。しかしながら、10-20%の症例で非特異的エステラーゼ染色陰性(または弱陽性)であり、細胞表面マーカーでも単球系抗原の発現が明らかでない。このため普通染色標本での形態所見(レース様の核網、明瞭な1〜2個の核小体、透明感のない豊富な青灰色の細胞質)が最終的な決め手となる。
 急性巨核芽球性白血病では分化度から2つのタイプに大別される(図5。未分化なタイプでは、芽球がおおむね中型、細胞質好塩基性で、N/C比大きく核網繊細である。分化傾向のあるタイプでは、異常細胞の多様性が特徴的である。細胞の分化度の異なる大小不同の細胞から構成される。細胞質にしばしば突起を認める。核の性状は、核網が均一でやや硬いもの、多核の芽球から微小巨核球まで多彩である(症例参照)。末梢血中での微小巨核球や巨核芽球断片、異形成が強い血小板の出現の所見は、急性巨核芽球性白血病の病型診断の参考となる。MPO陰性のAMLの病型鑑別は、形態的な所見のみでは限界があり、細胞表面マーカーなど他の検査所見を総合して確定する。

(3)細胞異形成の定量的評価

 末梢血または骨髄の芽球と細胞異形成の割合は、急性白血病(原発性、二次性)の診断に加え、AMLや骨髄異形成症候群の病型診断の基準に利用される。
 多系統の細胞異形成を伴うAML(AML with multilineage dysplasia)は、2系統以上の細胞異形成(各系統50%以上)で予後不良因子とされる。WHO分類2017年版では、骨髄異形成関連変化を伴うAML(AML with myelodysplasia-related changes:MRC)の病型が設置されており、診断基準として、①多系統の細胞異形成、②骨髄異形成症候群または骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍の既往、③関連する染色体異常の何れかがあれば本病型に診断される。
 細胞異形成が見られる場合、細胞系統ごとの異形成所見の定量的評価を行う(図6)。細胞異形成とは、顆粒球系における低顆粒性細胞質、低分節核(偽ペルゲル核)、異常分節核、赤芽球系における巨赤芽球様変化、核融解、核形態の不規則性・細分化、多核、環状鉄芽球、PAS陽性、巨核球系における微小巨核球、単核・円形分離多核等である。骨髄中の芽球増生が著しいために、巨核球系や成熟顆粒系が減少し、その観察が難しい場合、末梢血での好中球(細胞質顆粒減少、偽ペルゲル核)や血小板(巨大血小板、顆粒減少)の異形成所見が参考になる。

(4)反復性の染色体・遺伝子異常に特徴的な形態所見

 WHO分類2017年版では、予後良好なt(8;21)(q22;q22.1);RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO) 、inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22);CBFB-MYH11、t(15;17)(q22;q12); PML-RARAに加え、APLで非典型的な染色体異常が別に取り扱われ、また予後不良な3病型t(6;9)(p23;q34.1);DEK-NUP214(CAN)、inv(3)(q21.3q26.2) or t(3;3)(q21.3;q26.2);GATA2,MECOM(EVI1)、t(1;22)(p13.3;q13.1);RBM15(OTT)-MKL1(MAL)が追加されている。

 AML病型特異的な染色体・遺伝子異常(recurrent cytogenetic abnormalities)では、主な染色体・遺伝子異常において、特徴的な形態所見があり、その総合的な評価によって染色体・遺伝子異常を推定可能な場合が多い。一例として、t(8;21)(q22;q22.1);RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO) をともなうAMLでは、分化傾向を有する大型の芽球、両端が細く尖った1本のアウエル小体、サーモンピンク色の好中球、好中球偽ペルゲル核異常などが特徴的である(症例参照)。
 骨髄の好酸球の形態は、分化傾向をもつAMLの病型診断の参考となる(症例参照)。inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22):CBFB-MYH11をともなうAMLでは、幼若な好酸性顆粒、すなわちバイオレット紫の粗大な顆粒が認められる。なお、幼若な好酸性顆粒は症例によって出現頻度が異なるため、形態観察において注意する。t(8;21)(q22;q22.1);RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO) をともなうAMLでは、正常な好酸球の増加を来す。t(6;9)(p23;q34.1);DEK-NUP214(CAN)をともなうAMLは、成熟を伴うAML(M2)または急性骨髄単球性白血病(M4)を呈し、好酸球に暗く染まる顆粒をもつことを特徴とする(図7)。前2者の染色体異常は予後良好であるのに対して、後者は予後不良である。

 骨髄塗抹標本の血液細胞形態では、異常細胞増殖とともに、背景疾患(骨髄異形成症候群や骨髄増殖性腫瘍など先行疾患、潜在クローン)、造血状態、治療合併症に関する情報が得られる。治療抵抗性の潜在クローンを示唆する所見として、t(8;21)(q22;q22.1)における造血器腫瘍に関連した全身性肥満細胞症Systemic mastocytosis with an associated haematological neoplasm (SM-AHN) の診断のため、肥満細胞の集族に留意する(症例参照)。

おわりに

 医療技術の進歩と普及にともない、白血病をはじめとする造血器腫瘍の患者診療における検査血液学の重要性が増大している。治療面では、分子標的療法をはじめ疾患や病型に有効な新規治療法の開発と導入により、層別化さらに個別化医療が推進されている。そこで病型診断や病期分類は、血液細胞分類や形態所見の精度管理を踏まえた上で、診断アルゴリズムに基づき、標準化された診断が求められる。初発時の形態診断は一般に、免疫形質、染色体検査やキメラ遺伝子検査の結果が不明の段階であり、形態所見のみでは最終的な病型診断は困難である。一方、従来からの形態所見に基づくFAB分類あるいは形態所見を踏まえたWHO分類は、簡易で迅速な情報として従来以上に重要となっている。各施設における標準化された細胞判定の導入と精度高い細胞分類に基づく正しい病型診断の実施により、造血器腫瘍の個別患者の診断と治療、さらにはエビデンス作成に基づく良質な患者診療に寄与することが望まれる。

参考文献

1)土屋達行、渡邊眞一郎.骨髄像の観察. スタンダード検査血液学、医歯薬出版株式会社、東京、2021、p151-160.

2)Arber DA, Orazi A, Hasserjian R, et al. The 2016 revision to the World Health Organization classification of myeloid neoplasms and acute leukemia. Blood. 2016;127:2391-405.

3)Campo E, Swerdlow SH, Harris NL,et al.The 2008 WHO classification of lymphoid neoplasms and beyond: evolving concepts and practical applications. Blood. 2011; 117: 5019–5032.

4)宮地勇人.血液細胞形態診断.堀部敬三編.小児がん診療ハンドブック.医薬ジャーナル社.大阪.p66-74. 2011.

5)宮地勇人.造血器疾患の診断精度向上に向けた検査情報連携.臨床検査2014; 58: 427-435.

6)宮地勇人.急性白血病を正しく診断するためのポイント.臨床検査2015; 59: 697-703.

図の説明

図1.急性白血病と骨髄の形態変化の関係(文献4より引用)

図2.WHO分類に基づく急性骨髄性白血病の診断プロセス(文献5より引用)

図3.病型分類を左右する細胞判定(文献6より引用)

図3A 骨髄芽球
骨髄芽球は、中型から大型のサイズで、細胞質は濃い青色から青灰色、核形は円形から卵形で、繊細顆粒状の核クロマチン構造といくつかの核小体を有する。骨髄芽球には、顆粒なし芽球(タイプI)と顆粒あり芽球(タイプII)がある。図の細胞の多くは、後者である。前骨髄球と細胞判定した場合、異なる病型分類となりうる。偽ペルゲル核異常や好中球の低顆粒がみられる。単球系細胞にも若干の異形成を認める。

図3B 単芽球と異常前単球
単芽球は、大きなサイズで僅かな顆粒を含む比較的豊富な細胞質をもち、核は円形でレース様のクロマチン構造と1〜2個の明瞭な核小体が見られる(黒矢印)。異常前単球は、より不規則で折り重なった核形を示し、繊細なクロマチン構造と小さく不明瞭な核小体が見られる(白矢印)。異常単球は、入り込むまたは折り重なる核形と濃縮した核クロマチンを呈し、細胞質はより多くの顆粒をもつ(黒矢頭)。骨髄芽球も認められる(白矢頭)。

図4.形態所見による基本的なWHO病型分類のプロセス

図5.MPO陰性AMLの病型鑑別:急性巨核芽球性白血病(文献6より引用)

A:未分化タイプ:芽球はおおむね中型で細胞質好塩基性、N/C比高く核形は類円形、核網繊細である。

B:分化傾向タイプ:異常細胞は、多形性が特徴的である。細胞のサイズは中型から大型で、核の性状は、核網が均一でやや硬いもの(黒矢印)、多核の芽球から微小巨核球まで多彩である。細胞質にはしばしば突起(またはブレブ)を認める(白矢印)。

図6.細胞異形成所見(文献6より引用)

図7.骨髄好酸球の細胞形態による病型鑑別(骨髄塗抹標本の普通染色メイ・グリュンワルド・ギムザ染色所見)(文献5より引用)

A:t(8;21)(q22;q22.1);RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO) をともなう急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia: AML)では正常な好酸球の増加を呈する。 B:inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22):CBFB-MYH11をともなうAMLでは、骨髄の好酸球増加を認め、多くは幼若な好酸性顆粒、すなわちバイオレット紫の粗大な顆粒をもつ。粗大で特徴的な色調から異常な好酸球と判断できる。 C:t(6;9)(p23;q34.1);DEK-NUP214(CAN)をともなうAMLは、成熟を伴うAML(M2)または急性骨髄単球性白血病(M4)の病型を示し、好酸球に暗く染まる顆粒をもつことを特徴とする。

表1.骨髄有核細胞中の骨髄芽球比率20%未満の急性骨髄性白血病

AMLの病型診断所見
1t(8;21)(q22;q22.1);RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)をともなうAML染色体・遺伝子異常
inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22):CBFB-MYH11をともなうAML
t(15;17)(q22;q12);PML-RARAをともなうAML
2急性単芽球・単球性白血病、急性骨髄単球性白血病異常前単球→芽球相当
3赤白血病(Pure erythroid leukemia)赤芽球≧80% かつ 前赤芽球≧30%
4急性巨核芽球性白血病組織検査にて芽球集簇

AML: acute myeloid leukemia 急性骨髄性白血病、ANC: All nucleated cell 全有核細

III.白血病の染色体情報を読み解く

[Key Points]

・染色体検査は造血器腫瘍の診断にとって必須の検査である。特異的な染色体転座の多くではキメラ遺伝子が形成され、治療方針の決定にとって重要な情報を提供する。

・特異的染色体異常が見つからなかったときにも、核型情報の中には多くの手掛かりがある。特に、記載された切断点が腫瘍関連遺伝子の座位する部位であるかどうかを丁寧に確認することが大切である。

・分染法は染色体の形と白黒のバンドのパターンにより染色体の種類や構造異常を判定する形態診断法である。1つの細胞中に含まれる全ての染色体を細胞単位で同時に観察できる一方で、その解像度の限界も理解しておく必要がある。

・FISH(fluorescence in situ hybridization)法は蛍光標識プローブを用いることにより、染色体が形成されていない核(間期核)においても目的のDNA塩基配列の位置を観察することができる(間期核FISH)。

・分裂核の24種類の染色体を異なる色に染め分けるSKY(spectral karyotyping)法(または multicolor FISH 法; mFISH法)では、分染法だけでは判別が難しい複雑な染色体異常をより正確に診断することが可能になる。

・細胞の中で染色体が形成されているのは細胞周期のうちの分裂期のみである。染色体検査成功の鍵は、如何にして分裂期(通常は分裂中期)の細胞を十分に集めることができるかによる。

1.正しい結果を得るために知っておきたい検体取り扱いの注意点
(1)染色体検査は可能な限り骨髄液で行う

  白血病の染色体検査を行うときは骨髄液で行うことが望ましい。十分な白血病細胞が含まれていれば末梢血での検査も可能であるが、骨髄液に比べて成功率が劣る。ドライタップなどで骨髄液が十分採取できない場合を除き、可能な限り骨髄液で検査を行う。

(2)なぜ抗凝固剤はヘパリンを使うのか?

  ヘパリンはアンチトロンビンの作用を増強することにより抗凝固作用を示し、細胞機能検査に用いる血液を採取するときに使われる抗凝固剤である。染色体分染法では、染色体の観察に適した分裂中期(M期)の細胞を得るために培養が行われる。ヘパリン以外の抗凝固剤はカルシウムを除去することによって抗凝固作用を示し、分染法に必要な細胞分裂を阻害するため、染色体検査用の検体に用いてはならない。

2.染色体検査報告書をどのように読んだらよいか
(1)核型(かくがた)はISCNにしたがって記載される

  核型は全てISCN(International System for Human Cytogenetic Nomenclature)にしたがって記載される 1)。白血病細胞の核型表記の構造を図1に、よくみられる記号を表1に示したが、意味がわからない記号や記載を見たときは、是非ISCNの説明を読んでいただきたい。

(2)まず典型的な染色体異常の有無を確認する

  何らかの異常が認められたときは、まずWHO分類に含まれる反復性染色体異常かどうかを確認する。WHO分類には含まれていなくても、何らかの反復性染色体異常が見つかれば診断的価値は高い。ただし、次の点に注意が必要である。

 ①染色体番号だけでなく切断点を見る

  たとえば、AMLの予後不良因子であるFUS(TLS)-ERGはt(16;21)(p11.2;q22)により形成されるが、AMLでの
t(16;21)には、切断点も融合遺伝子も全く異なるt(16;21)(q24;q22):RUNX1(AML1)-CBFA2T3(MTG16)があり、注意が必要である。FUS(TLS)-ERG陽性例は高リスク群となるが、RUNX1(AML1)-CBFA2T3(MTG16)陽性例の予後は不良ではない。このようなことはt(16;21)に限ったことではない。

 ②切断点が同じでも関与する遺伝子がいつも同じとは限らない

  t(11;19)(q23;p13.3)はAMLでしばしばみられる染色体転座であり、もっとも高頻度にみられるキメラ遺伝子はKMT2A(MLL)-ELLである。しかし、19p13.3領域には複数のKMT2A(MLL)の相手遺伝子が存在する。RT-PCRでKMT2A(MLL)-ELLを検出できなかった場合は、KMT2A(MLL)と他の遺伝子のキメラ遺伝子の存在の可能性を考慮する。このような例も他にもいくつも存在する。これらを染色体レベルで区別することは不可能であり、遺伝子解析と合わせた判断が必要である。

(3)染色体異常の構造がいつも単純であるとは限らない
 ①反復性染色体異常に派生した染色体異常

  反復性染色体異常にはさまざまな付加的染色体異常を伴うことが多い。核型記載の中にt(8;21)(q22;q22.1)や
t(9;22)(q34;q11.2)などの記載が見えればその判断は難しくない。しかし実際には、さまざまな形で反復性染色体異常が隠れていることがある。

 46,XY,t(8;16;21)(q22;p11.1;q22)という染色体転座を見たとき、どのように考えるか?(文献2)、表3のケース7)この染色体異常の中にt(8;21)(q22;q22.1)やt(16;21)(p11;q22.1)が見えるだろうか?本症例ではRUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)が陽性であったことから、転座の中心はt(8;21)(q22;q22.1)であり、t(8;21)が形成される際に16番染色体も巻き込んだ3-way転座が生じたことで説明がつく。しかし、もしRUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)が検出されなかった場合には、t(16;21)(p11;q22.1)によるFUS(TLS)-ERGの可能性を考慮する必要がある。染色体検査だけでなくキメラ遺伝子検査を併用することによって初めて正確な診断が可能になる重要なケースであり、このようなケースは決して珍しいものではない。

 45,X,-X,t(6;8)(q27;q22)が検出され、キメラ遺伝子スクリーニングではRUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)が陽性であった例ではどうだろうか?(文献2)、表3のケース8)RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)が形成される t(8;21)(q22;q22.1)は検出されなかったが、追加で行ったFISH検査でRUNX1(AML1)RUNX1T1(ETO)の融合シグナルが観察できたことから、複雑な染色体異常によってt(8;21)の存在がマスクされている可能性が示唆された。RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)が形成されているのにもかかわらずGバンドでのt(6;8)(q27;q22.1)という核型診断の結果を総合して考えると、この症例ではt(6;21;8)(q27;q22;q22.1)という3-way転座が生じていると予想された。

 ②構成的(先天性の)変異がある染色体に反復性染色体異常が生じると核型記載が複雑になる

  腫瘍細胞の染色体検査を行った時に、inv(9)(p11q13)/inv(9)(p13q13)のような異常が観察されることが時々ある。inv(9)(p11q13)/inv(9)(p13q13)は一般集団の1~2.5%に認める正常変異で、通常は腫瘍化とは関係がない。そのほかにinv(1)(p13q21)/inv(1)(p13q12)なども正常変異として知られており、このような異常が観察された時に腫瘍特異的な異常なのか正常変異なのかをしっかり区別することが重要である。

 46,XY,der(9)inv(9)(p12q13)t(9;22)(q34;q11.2),der(22)t(9;22)(文献2)、表3のケース16)という核型は非常に複雑に見えるが、実際には単純なt(9;22)(q34;q11)である。正常変異であるinv(9)(p12q13)をもつ染色体にt(9;22)(q34;q11)が生じるとこのような核型記載になる。

 45,X,-X,der(8)inv(8)(p21q22)t(8;21)(q22;q22),der(21)t(8;21)(p21;q22)(文献2)、表3のケース6)も同様で、inv(8)(p21q22)を持った8番染色体が21番染色体との間で相互転座をしたと考えられる。

 ③常に複雑な染色体異常になる反復性キメラ遺伝子もある

  KMT2A(MLL)-MLLT10(AF10)を形成する染色体転座は通常t(10;11)(p12;q23)と記載されるが、実際にこのような単純な転座が観察されることはほとんどない。その理由はKMT2A(MLL)MLLT10(AF10)の染色体上での遺伝子の向きの違いにある13)。KMT2A(MLL)が11番染色体長腕上でセントロメアからテロメア方向を向いているのに対して、MLLT10(AF10) は10番染色体上をテロメアからセントロメア方向を向いている。そのため、両者の単純な相互転座では KMT2A(MLL)の 5'側と MLLT10(AF10) の 3'側が融合することができず、必ずどちらかの一部を含む染色体断片が逆位にならなければならない。このような KMT2A(MLL)-MLLT10(AF10)の特徴を理解していれば、たとえ典型例でなくてもKMT2A(MLL)-MLLT10(AF10)の存在を疑うことができるようになる。逆位を伴った転座のため、11番の切断点がKMT2A(MLL)が存在する11q23と診断できない場合も多く、その場合はPICALM-MLLT10(AF10)の可能性も考慮されるが、FISHでKMT2A(MLL)のスプリットを確認できればPICALM-MLLT10(AF10)は除外できる。

 同様のことはt(X;11)(q24;q23)によるKMT2A(MLL)-SEPT6などにも当てはまる。このような知識を持つことにより、非典型例であっても観察した染色体異常の情報を手掛かりに関与しているキメラ遺伝子をかなりの精度で予測できる場合がある。

 ④PML-RARAを伴う急性前骨髄球性白血病の記載から染色体転座情報が消えた

 急性前骨髄球性白血病(APL)では、微細転座や複雑な転座によって、染色体レベルでt(15;17)とならない場合も多く、WHO分類2017年版からAcute promyelocytic leukemia with PML-RARAとなり、転座の記載が削除された。また、variant RARA転座と呼ばれるPML以外の相手によるキメラ遺伝子は、現在でもなお次々と同定されている。

 その一方で、APLの病型を呈していながらPML-RARAが検出できない症例からRARB(retinoic acid receptor β)やRARG (retinoic acid receptor γ)が関与するキメラ遺伝子が同定されているRARBは3p24.2、RARGは12q13.13に座位する遺伝子であるが、いずれのキメラ遺伝子を有する症例でも、核型に3q24または12q13の異常が含まれないことが多く、核型からの予測は難しい。

4.分染法では検出できない染色体異常がある

 分染法では検出が難しい染色体異常としては ALL における t(12;21)(p13;q22); ETV6-RUNX1 が高頻度であり有名であるが、AMLにおいてもt(5;11)(q35;p15.5)によるNUP98-NSD1、AMKLにおけるinv(16)(p13.3q24.3); CBFA2T3-GLIS2とt(11;12)(p15;p13);NUP98-JARID1A などがある。いずれも各々の染色体の末端部の pale band(白黒の白い部分)に切断点(遺伝子)があり転座や逆位によって染色体の長さにも変化が起こらないため、通常の分染法での検出はほぼ不可能である。

 以上のような特殊な染色体異常だけでなく、通常は判別可能な反復性染色体異常によって形成されるキメラ遺伝子が、本来の染色体異常とは全く関係のない核型(正常核型を含む)の症例で検出されることも珍しいことではない。

5.おわりに

 染色体異常が見つかったとき、その白血病細胞にとってその異常がクローン性のものかどうか、白血病化にとって意味のある異常かどうかをまず確かめる。

 しかし、このことをあえて本稿の最後に書いたのは、たとえ定義上は“クローン性の異常ではない”と判断されるような場合であっても、その中に診断の手掛かりになる異常が存在する場合があり、そのような異常をみつける機会を最初に排除すべきではないと考えるからである。

 染色体分析は、通常たかだか20細胞の核型を観察して診断しているだけなので、その中にはたまたま1個しか異常細胞が見つからないということはよくあることである。元々そのクローンは非常に低頻度のクローンだったかもしれない。また、採取した検体に末梢血がたくさん混入したりなどして十分に腫瘍細胞が含まれていなかったりなど、適切な検体で検査が行われていなかった可能性もある。既知の染色体異常が見つからない場合は、たとえクローン性異常の条件を満たさない場合でも、手掛かりとなり得る染色体異常の有無を丁寧に確認することが大切である。

 その際に、染色体の報告書の中に含まれている核型の写真も是非見て欲しい。この核型からそれぞれの染色体の長さやバンドのパターンからその染色体が正常なのか、どのような異常があるのかを判別する核型診断ができるようになるのにはかなりの熟練を要し、「臨床細胞遺伝学認定士」という資格が日本人類遺伝学会によって認定されているように、専門性の高い技能である。この核型診断をする技術を身につけるのは容易ではないが、記載された核型診断がどのような意味を持つのかを知ることはそれほど難しいことではないので、是非基本的な核型診断の読み方を覚えてほしい。稀な染色体異常だと思っていた中に、よくみる異常が紛れ込んでいることはよくあり、慣れてくると核型診断の記載の中からこのような異常を見つけることは決して難しいことではない。 

参考文献

1) McGowan-Jordan J, et al., eds. ISCN 2020: An International System of Human Cytogenetic Nomenclature. Basel: Karger; 2020


2) 滝 智彦, 林 泰秀:染色体検査結果とキメラ遺伝子検査結果の食い違い症例の検討.日本小児血液学会雑誌 23(4): 310-314, 2009


3) 滝 智彦.分子・細胞遺伝学的診断.小児がん診療ハンドブック.堀部敬三編,pp81-87,医薬ジャーナル社,大阪,2011 


4) 滝 智彦,林 泰秀.細胞遺伝学的および分子生物学的診断.小児造血器腫瘍の診断の手引き.堀部敬三,鶴澤正仁編集,pp33-45,日本医学館,東京,2012


5) 滝 智彦.染色体検査の基礎知識.小児血液・腫瘍学,日本小児血液・がん学会編集,pp5557,診断と治療社,東京,2015


その他推奨 Websites

1) Mitelman Database of Chromosome Aberrations and Gene Fusions in Cancer Searching the Database  https://mitelmandatabase.isb-cgc.org

(腫瘍に関連する未知の染色体異常を見つけた時)


2) Atlas of Genetics and Cytogenetics in Oncology and Haematology

http://atlasgeneticsoncology.org/

(腫瘍関連の代表的な染色体異常についての情報を集めたい時) 


3) VYSIS FISH: ALL HEMATOLOGICAL CANCER

https://www.molecular.abbott/us/en/products/oncology/all-hematological-cancer

(FISH 解析用プローブの情報) 


4) 染色体異常を見つけたら

http://cytogen.jp/index/index.html

(先天異常から腫瘍までの代表的な染色体異常の解説から、各種染色体関連検査、核型表記法についてまで、染色体検査に関連する日常必要なほぼ全ての知識を得ることができる日本語のサイト) 


図1.白血病細胞の核型表記の構造

medical_information_img08.jpg

表1.核型表記でよく使われる記号

使用例とその説明

p

q

短腕

長腕

短腕の記号である“p”はフランス語の“petit”(プチ、小さい)の頭文字をとったものである。

長腕の記号である“q”には特別な意味はなく、アルファベットのp の次の文字であるqが充てられた。

t

translocation

転座

t(8;21)(q22;q22.1)

8q22と21q22.1の間の相互転座

*異なる染色体の融合(切断)点はセミコロン(;)でつなぐ

inv

inversion

逆位

inv(16)(p13.1q22)

16番染色体のp13.1とq22の間での逆位

*同一染色体上の融合(切断)点の間にはセミコロン(;)は入れない

ins

insertion

挿入

ins(5;2)(p14;q22q31.2)

2q22-q31.2領域の欠失と5p14への挿入

挿入された派生5番染色体上での染色体成分の順番は 5pter→5p14→2q31.2→2q22→5p14→5qter

del

deletion

欠失

del(5)(q13q33):5q13-q33領域の腕内欠失

del(5)(q13):5q13から長腕末端までの端部欠失

der

derivative chromosome

派生染色体

der(18)t(14;18)(q32;q21)

14q32と18q21の転座によって形成される2つの異常染色体のうちのセントロメアが18番染色体のもの。

18p末端から18q21までの18番染色体部分に14q32から14q末端までの14番染色体部分がつながっている。

add

additional material of unknown origin

過剰部分付加染色体

add(12)(p13)

12p13部分より末端が欠失し、その部分に由来不明の染色体部分が付加している。

mar

marker chromosome

マーカー染色体

+mar

構造異常を有する由来不明の染色体

同じものが2個ある時は+2mar

異なるものが複数ある時は+mar1,+mar2,…

r

ring chromosome

環状染色体

+r

同じものが2個ある時は+2r

異なるものが複数ある時は+r1,+r2,…

由来染色体(例、7番染色体)が判明している場合は+r(7)

融合部位までわかっていれば+r(7)(p22q36)

sl

sdl

stemline

中心となるクローン

46,XY,inv(16)(p13.1q22)[10]/47,sl,+22[10]

サブクローンを記載する時に中心となるクローンを省略して記載 する。ここでの47,sl,+22は47,XY,inv(16)(p13.1q22),+22の省略形であり、inv(16)(p13.1q22)は20細胞にみられることを意味する。

複数のサブクローンが存在する場合にはslに加えてsdlを用いる。

46,XY,t(9;11)(p22;q23)[14]/47,sl,+8[5]/48,sdl1,+6[1]における48,sdl1,+6は48,XY,+6,+8,t(9;11)(p22;q23)を意味する。

idem

ラテン語でsameの意味

46,XY,t(8;21)(q22;q22.1)[12]/46,idem,del(9)(q13q22)[8]

slと同じように用いられる。

dup

duplication

重複

dup(2)(q11.2q37)

1q22-q25部分の重複

+,-

染色体の増減

+8:8番染色体の増加

-7:7番染色体の減少

+add(1)(p11),+mar1,+r1:異常染色体の増加

?

不明

del(9)(q?)

9qに欠失が認められるものの、正確な欠失部位は不明

執筆者

宮地勇人
東海大学医学部基盤診療学系臨床検査学教授


滝 智彦
杏林大学保健学部臨床検査技術学科教授


木下明俊
ビー・エム・エル血液学課顧問
聖マリアンナ医科大学小児科客員教授

謝辞

本症例集で取り上げた症例の中央診断においては下記の方々(敬称略)のご指導・ご尽力をいただきました。厚く御礼申し上げます。


多和昭雄、足立壯一、多賀崇、林泰秀、高橋浩之、松下弘道、清河信敬、出口隆生、照井君典、橋井佳子、太田秀明、鶴澤正仁、駒田美弘、横澤敏也、堀部敬三、伊藤雅文(日本小児がん研究グループ 血液腫瘍分科会)


矢部 みはる、蟹由 公子(東海大学医学部基盤診療学系臨床検査学)

田中 由美子(東海大学医学部付属病院)

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