開発情報

2023年11月01日

家族性高コレステロール血症に関連する検査開発

家族性高コレステロール血症

家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia: FH)は、Low Density Lipoprotein(LDL)受容体関連遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)(稀に常染色体潜性(劣性)の場合もあります)の遺伝性疾患です。FHは高LDLコレステロール(LDL-C)血症、皮膚ならびに腱黄色腫、および若年性冠動脈硬化症を主徴とします。
FHヘテロ接合体患者は300人に1人以上、ホモ接合体患者は36~100万人に1人以上の頻度であり、様々な遺伝性代謝疾患の中でもFHは最も頻度が高く、日常診療において高頻度に遭遇する疾患といえます。わが国におけるFH患者総数は、25万人以上と推定されます。
このように、FHは稀な疾患ではなく、スタチン内服などの脂質異常症治療を受けている高LDL-C血症患者の約8.5%を占めるとする報告があります。FHは遺伝的背景のない高コレステロール血症に比べてLDL-C増加の程度が著しく、動脈硬化の進展も早く、それに伴う冠動脈疾患発症のリスクも高いため、早期発見と厳格なLDL-C低下治療が望まれます。

FHの遺伝子変異解析

FHは、LDL受容体(LDLR)、アポリポ蛋白B-100(APOB)、Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin type 9(PCSK9)の遺伝子に異常が起こると発症します。また、常染色体潜性(劣性)遺伝を示す場合の原因遺伝子としてLow Density Lipoprotein Receptor Adaptor Protein 1(LDLRAP1)が知られています。これら遺伝子の幅広い領域にわたりFHの原因となる遺伝子変異が存在し、LDLR だけでも既に2000以上の遺伝子変異が報告されています(1)。
遺伝性疾患では疾患原因の遺伝子変異解析が好適な診断方法となります。FHにおいては原因遺伝子が多岐にわたり解析対象とすべき領域も多いため、これまでは臨床検査として網羅的なFH遺伝子変異の解析を行うことはコスト、労力の面から難しかったのですが、次世代シークエンス(Next Generation Sequencing : NGS)法の発展により、FH原因遺伝子の網羅的な遺伝子変異解析の検査を実施できるようになりました。

BMLのFH遺伝学的検査

BMLではLDLR, APOB, PCSK9, LDLRAP1の4つのFH原因遺伝子について、遺伝子の全領域をNGSで解析する遺伝学的検査を開発し検査受託しています[検査項目名:FH遺伝子変異解析]。
また、NGS法では検出の難しいLDLR遺伝子の構造変異(エクソン単位の大きな欠失、重複)を検出するためのMultiplex Ligation-dependent Probe Amplification (MLPA) 法による遺伝学的検査も検査受託しています[検査項目名:LDLR遺伝子変異解析検査(MLPA法)]。

FHの鑑別疾患

高LDL-C血症や腱・皮膚黄色腫を呈する患者の中には、ATP結合カセットトランスポーターG5/G8 (ABCG5 / ABCG8) の遺伝子変異により腸管へのステロール排泄機能が低下することで発症する、潜性遺伝(劣性遺伝)形式をとるシトステロール血症が原因となっている可能性もあります。シトステロール血症患者では血中植物ステロール濃度が上昇するため、家族性高コレステロール血症とシトステロール血症とを鑑別するためには、血中のシトステロールやカンペステロールといった植物ステロール濃度の測定が有用です(2)。BMLでは、Liquid Chromatography - Mass Spectrometry(LC-MS/MS)を用いて血中シトステロール、カンペステロール濃度測定法を開発しました。

表 家族性高コレステロール血症関連検査項目
項目コード検査項目名検査方法検査内容
13127FH遺伝子変異解析(家族性高コレステロール血症遺伝子変異解析)次世代シークエンス(NGS)法LDLR, APOB, PCSK9, LDLRAP1の全領域をシークエンス解析し、塩基置換および小さな(数十塩基まで)挿入/欠失を検出し、FHの診断に寄与する情報を提供する
13257LDLR遺伝子変異解析(LDLレセプター遺伝子変異解析)MLPA法LDLRの構造変異(エクソン単位の大きな欠失、重複)を検出し、FHの診断に寄与する情報を提供する
13778シトステロールLC-MS/MS法血中のシトステロール濃度を測定し、シトステロール血症の診断やFHの鑑別に寄与する情報を提供する
参考文献
  1. 1Leigh S, Futema M, Whittall R, et al. The UCL low-density lipoprotein receptor gene variant database: pathogenicity update. J Med Genet. 2017 Apr;54(4):217-223.
  2. 2Tada H, Okada H, Nomura A, Yashiro S, Nohara A, Ishigaki Y, Takamura M, Kawashiri MA. Rare and Deleterious Mutations in ABCG5/ABCG8 Genes Contribute to Mimicking and Worsening of Familial Hypercholesterolemia Phenotype. Circ J. 2019 Aug 23;83(9):1917-1924.