Ⅰ.WHO分類に基づいた急性骨髄性白血病(AML※)の診断の進め方
- ※AML:acute myeloid leukemia=急性骨髄性白血病
- 末梢血および骨髄血塗抹標本の観察と細胞表面マーカー解析結果からFAB分類に基づいた診断を行う。遺伝子・染色体の結果が判明した時点でWHO分類に基づいた診断を行う。
- 骨髄穿刺で骨髄血が吸引困難の場合や骨髄が低形成を示す場合、芽球比率が低く骨髄異形成症候群との鑑別が問題となる場合には、骨髄血クロット標本や骨髄生検標本による病理組織診断を併せて行う。
- WHO分類では骨髄有核細胞に占める芽球の割合が20%以上の場合にAMLと診断するが、t(15;17)、t(8;21)、inv(16)の核型異常を示す症例では20%未満でもAMLと診断できる。
- ダウン症候群の患者では、芽球比率に関わらずダウン症候群に伴う骨髄系腫瘍として扱う。
- WHO分類は新たに見つかった臨床的に意義のある遺伝子の情報に重点をおいての改定が続けられており、臨床の場でもこれらの遺伝子検査が求められている。
骨髄系前駆細胞のクローン性増殖から生じる造血器腫瘍であるAMLは、生物学上でも臨床上でも多様性に富む疾患群である。従来、AMLの病型分類は形態学に基づくFAB分類によって行われてきた。しかし、AMLの生命予後や治療反応性と関連する染色体・遺伝子異常が次々と明らかになり、これらの臨床的に意義のある情報を組み入れたWHO分類が提唱され、今では臨床の場で広く用いられている。WHO分類は、分子診断や分子標的治療につながるAMLの新規疾患単位を次々と取り込んで改定を重ねている。
臨床症状や血液検査所見から白血病が疑われた場合、骨髄穿刺を行って急性白血病か否かをまず判断する。患者の状態から骨髄穿刺が危険と判断される場合は末梢血で診断せざるを得ない場合もあるが、その場合は正確な病型診断が困難となることもある。急性白血病では白血病細胞(通常は芽球)のクローナルな増殖を認める。FAB分類では芽球および芽球相当の細胞が骨髄全有核細胞の30%以上を占めることが急性白血病と診断する条件であったが、WHO分類では20%以上となった。さらに、t(15;17)、t(8;21)、inv(16)の反復性遺伝子・染色体異常を伴うAMLの場合は20%未満でもAMLと診断できるようになった。
骨髄穿刺で骨髄血が吸引困難の場合は骨髄生検を行っての病理組織学的診断が必要となる。また、骨髄が低形成を示す場合や芽球比率が低く骨髄異形成症候群との鑑別が問題となる場合にも骨髄生検が推奨される。
形態診断では、May-Giemsa染色ないしはWright-Giemsa染色、さらにミエロペルオキシダーゼ(MPO)染色、エステラーゼ染色などの特殊染色を行なった塗抹標本の観察から白血病細胞の起源、すなわち骨髄球系なのか、単球系なのか、赤芽球系なのか、巨核球系なのかを判断する。MPO染色陽性の場合はAMLであることの診断は比較的容易であるが、この場合は治療に緊急を要することの多い急性前骨髄球性白血病を見逃さないことが重要である。MPO染色陰性の場合は急性単芽球性白血病、急性巨核芽球性白血病、最未分化型AML、さらには急性リンパ性白血病などが鑑別にあがり、細胞表面マーカー解析結果も参考にして判断する。AMLでは通常CD13、CD33、CD38、CD117の発現が認められるが、単球性ではCD14、CD64、CD11c、erythroid leukemiaではCD235a、CD36、巨核芽球性ではCD41、CD42b、CD61の発現が診断に有用である。
AMLの診断時の染色体検査は必須である。必要に応じて、Monosomy 7 などのFISH検査も追加する。遺伝子検査も重要で、RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)、CBFB-MYH11、PML-RARA、KMT2A(MLL)ーMLLT3(AF9)、KMT2A(MLL)-ELL、FUS(TLS)ーERG、NUP98-HOXA9などの各種キメラ遺伝子やFLT3、KIT、NPM1、CEBPAの解析を行う。これらの染色体、遺伝子の結果が揃った時点でWHO分類による病型が確定できる。
AMLのWHO分類にはヒエラルキーがあり、上位から反復性遺伝子異常を伴うAML(AML with recurrent genetic abnormalities)、骨髄異形成関連の変化を伴うAML(AML with myelodysplasia-related changes)、特定化されないAML(AML, not otherwise specified)の順に層別化されている。例えば、形態診断で多系統の異形成を認める症例でも、染色体や遺伝子検査でt(8;21)やRUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO)を認めた場合は反復性遺伝子異常を伴うAMLに分類される。時に染色体とキメラ遺伝子の結果に乖離が見られる場合があるが、この場合はFISH法などによる確認を行う。このような確認検査が必要になる場合に備え、染色体検査後のカルノア固定液の残検体を固定し保存しておくことが望まれる。
ダウン症候群患者ではAMLとMDSは臨床的にも生物学的にも差はないと考えられており、芽球比率に関わらずダウン症候群に伴う骨髄系腫瘍として扱う。ダウン症候群に合併する骨髄系腫瘍ではGATA1遺伝子変異を高率に認め、診断に迷う場合はGATA1遺伝子検査が有用である。
2017年のWHO分類の改定により、2008年版では暫定的病型であったNPM1遺伝子異常とCEBPA遺伝子異常の2つが反復性遺伝子異常を伴うAMLの中の独立した疾患単位として正式に認められ、BCR-ABL1遺伝子変異を伴うAMLおよびRUNX1(AML1)遺伝子変異を伴うAMLの2つの病型が暫定的病型として加わった。骨髄異形成関連の変化を伴うAMLは、2008年版で骨髄異形成症候群(MDS)や骨髄増殖性腫瘍(MPN)の既往を持つ、多系統の異形成を示す、MDS関連の染色体・遺伝子異常を認めるいずれも予後不良のAMLとして反復性遺伝子異常を伴うAMLの次に位置づけられたカテゴリーであるが、NPM1遺伝子変異や両アリルCEBPA変異の予後良好因子を持つ症例は取り除かれることになった。さらにdel(9q)も必ずしも予後不良因子ではないことから取り除かれた。また、従来は骨髄の赤芽球が50%以上の場合、赤芽球を除く有核細胞中の芽球が20%以上あればAMLと診断できたが、2017年のWHO分類の改定では芽球の割合が全骨髄細胞に占める割合に統一されたことにより、急性赤白血病の赤芽球/骨髄球型の多くはMDSと診断されることになった。
WHO分類が遺伝子解析研究の成果をより反映する方向で改定が続けられており、予後予測や将来の分子標的治療につながる有用な分類に進化している一方で、日常診療の場ではWHO分類に基づいた病型診断に必要な遺伝子診断を全て実施することが難しいことも事実である。そのような現状では、後の検索に備え、バイオバンクなどでの検体保存を行う必要がある。
- 1Swerdlow SH, Campo E, Harris NL, et al. WHO Classification of Tumors of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Revised 4th Edition.Lyon, France: International Agency for Research on Cancer, 2017
- 2Dohner H, Estev E, Grimwade D, et al. Diagnosis and management of AML in adults: 2017 ELN recommendations from an international expert panel. Blood 129: 424-447, 2017
- 3Creutzig U, van den Heuvel-Eibrink MM, Gibson B, et al: Diagnosis and management of acute myeloid leukemia in children and adolescents: recommendations from an international expert panel. Blood 120: 3187-3205, 2012
- 4Arber et al, 2016. The 2016 revision to the World Health Organization classification of myeloid neoplasms and acute leukemia. Blood, 127(20):2391-405, 2016
- 5Bain BJ, Bene MC. Morphological and Immunophenotypic Clues to the WHO Categories of Acute Myeloid Leukaemia. Acta Haematol 141:232-244, 2019
AML with recurrent genetic abnormalities |
AML with t(8;21)(q22;q22.1);RUNX1(AML1)-RUNX1T1(ETO) |
AML with inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22):CBFB-MYH11 |
Acute promyelocytic leukemia with PML-RARA |
AML with t(9;11)(p21.3;q23.3);KMT2A(MLL)-MLLT3(AF9) |
AML with t(6;9)(p23;q34.1);DEK-NUP214(CAN) |
AML with inv(3)(q21.3q26.2) or t(3;3)(q21.3;q26.2);GATA2,MECOM(EVI1) |
AML(megakaryoblastic) with t(1;22)(p13.3;q13.1);RBM15(OTT)-MKL1(MAL) |
AML with mutated NPM1 |
AML with biallelic mutation of CEBPA |
Provisional entity |
AML with BCR-ABL1 |
AML with mutated RUNX1 |
AML with myelodysplasia-related changes |
Therapy-related myeloid neoplasms |
AML, not otherwise specified |
Acute myeloid leukemia with minimal differentiation |
Acute myeloid leukemia without maturation |
Acute myeloid leukemia with maturation |
Acute myelomonocytic leukemia |
Acute monoblastic and monocytic leukemia |
Pure erythroid leukemia |
Acute megakaryoblastic leukemia |
Acute basophilic leukemia |
Acute panmyelosis with myelofibrosis |
Myeloid sarcoma |
Myeloid proliferations associated with Down syndrome |
Transient abnormal myelopoiesis associated with Down syndrome |
Myeloid leukemia associated with Down syndrome |
- 木下 明俊
- ビー・エム・エル血液学課顧問
聖マリアンナ医科大学小児科客員教授
本症例集で取り上げた症例の中央診断においては下記の方々(敬称略)のご指導・ご尽力をいただきました。厚く御礼申し上げます。
多和昭雄、足立壯一、多賀崇、林泰秀、高橋浩之、松下弘道、清河信敬、出口隆生、照井君典、橋井佳子、太田秀明、鶴澤正仁、駒田美弘、横澤敏也、堀部敬三、伊藤雅文(日本小児がん研究グループ 血液腫瘍分科会)
矢部みはる、蟹由公子(東海大学医学部基盤診療学系臨床検査学)
田中由美子(東海大学医学部付属病院)
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